【月読】 太田忠司
◆◇◆死者がこの世に遺した想い◆◇◆
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朔夜一心(月読)シリーズ1 | |
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長編 | |
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文藝春秋 | 2005.1 |
文春文庫 | 2008.1 |
月読 (文春文庫) 太田 忠司 文藝春秋 2008-01-10 by G-Tools |
■あらすじ
「月読」とは、死者の最期の思いを読みとる能力者。月読として生きる朔夜が、従妹を殺した犯人を追う刑事・河井と出会ったとき、さらに大きな事件が勃発して―。人は死の瞬間、何を思うのか。それを知ることに意味はあるのか。地方都市で鬱屈する若者たちの青春を描く、著者渾身の傑作ミステリー長篇。 |
(文春文庫より) |
■感想
月特集もいよいよ最後となりました。アンカーは【月読】です。
この特集では、ずっと『月』を読んできましたので、最後を飾るのにふさわしいタイトルだと思いました。
なお、『月読』は、『つくよみ』と読みます。
月の神を表す言葉だそうですが、ここではある特殊能力を持つ人の呼称となっています。
作品の世界は、私たちの現代世界とよく似ていますが、ちょっと異なった世界です。
作中世界では、人が死ぬと『月導(つきしるべ)』という超常現象が起こります。
月導は、岩やガラスなど物体として現れるものや、風や光として現れるもの、
温度や匂いという目に見えない状態で現れるものと、現象はさまざま。
どの人がどんな月導を残すのか、全く分からないし、必ずしも生前の姿を表すものでもありません。
この不思議な現象を解明しようと、莫大なお金と時間を費やしてしまったため、
科学技術は私たちの世界より立ち遅れてしまっています。
各家庭にパソコンもなければ、携帯電話も持っていません。人類はまだ月に行ったこともないのです。
そして、月導には死者の最期のメッセージがこめられており、
それを読み取る特殊能力を持った人を『月読』といいます。
月読は、先天的に備わった能力で、修行や勉強で習得できるものでもありません。
さて、ここまでファンタジックな設定だとミステリとして成立するのか不安になってきますよね。
月読が犯罪捜査に協力すればダイイング・メッセージから簡単に犯人が割り出せてしまいそうです。
しかし、月導から読み解かれる内容には証拠能力がなく、
あくまでもヒントとして捜査を進めているので、反則技は使っていません。
それでも動機はこの世界ならではのものがありました。
物語は、従妹を殺された刑事・河井が独自で捜査を行う過程で、月読・朔夜一心と出会う話と、
自分探しをしている高校生・克己が小悪魔的魅力を振りまく同級生・炯子(けいこ)にふりまわされ、
炯子の自宅で見知らぬ女性が殺される話の2本柱で進んでいきます。
始めのうちは全く接点がありませんでしたが、
両者に共通の人物が現れ、次第に二つの話が繋がるようになります。
さらに朔夜の幼少期の失われた記憶や、克己と炯子の出生の秘密、贋作事件が
複雑に絡み合ってくるのですが、すべてがすっきりと纏められているのはさすがですね。
太田作品は、少年が活躍するシリーズが多いので、
さすがに少年期の心の揺れはよく描かれていると思いますが、
特殊な世界観だけにちょっと屈折しているなと感じました。
二つの事件はいずれもゆがんだ愛情が引き起こした悲劇でした。
犠牲になった人が浮かばれず、やりきれない気持ちになりました。
■評価(5個が最高)
◆トリック度 | ||
◆冷や汗度 | ||
◆満足度 | ||
◆月が出た出た度 | 新月 |
■特におすすめ!
- パラレルワールドに興味がある方
- 超常現象に興味がある方
- ファンタジック・ミステリが好きな方
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今回でひとまず当ブログの月特集は終了いたしますが、
良い月が出ましたら随時特集に追加していきたいと思います。
また、皆様からのご参加は引き続き受け付けておりますので、いつでもお気軽にご参加くださいね!
それでは、ご参加くださった方々、お読みいただいた皆様、ありがとうございました。