【フレンチ警部と毒蛇の謎】 F・W・クロフツ

◆◇◆狂った計算で支払った大きな代償◆◇◆

フレンチ警部シリーズ18
長編
創元推理文庫 2010.3


フレンチ警部と毒蛇の謎
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書評

■あらすじ

ジョージ・サリッジは英国第二の動物園で園長を務めている。申し分ない地位に就いてはいるが、博打で首は回らず、夫婦仲は崩壊寸前、ふと愛人に走る始末で、老い先短い叔母の財産に起死回生の望みを託す。その叔母がいよいよ他界し、遺言状の検認がすめば晴れて遺産は我が手に、と思いきや・・・・・・。目算の狂ったジョージは、しょうことなく悪事に加担する道を選ぶ。自分たちに疑いは向けられない、万一の場合もジョージが泥をかぶることはない、と相手は言う。そう、良心の呵責を別にすれば事はうまく運んでいた。フレンチというスコットランドヤードの首席警部が横槍を入れるまでは──。
(創元推理文庫より)

■感想
  本作は、クロフツの最後の未訳長編だそうです。
  といっても、私はクロフツの作品を読むのは今回が初めてなんですが(笑)
  デビュー作の『樽』には前々から興味があったので、そのうち読んでみようと思います。

  冒頭に作者註が以下のようにあります。

本書は二つの実験を行っている。第一に、通常の叙述と倒叙を組み合わせた探偵小説の成立を試み、第二に、犯罪の前向きな描写を目論んだ。 

  叙述と倒叙がダブルであるの!?とかなり期待してしまったのですが(笑)、『叙述』は、いわゆるミステリ用語の『叙述トリック』のことではなかったようです。そんな騙しは何処にもなかった(^^;)
  要するに、倒叙形式と普通の探偵小説の融合を試みたということが言いたかったようです。
  第二の『犯罪の前向きな描写』については、よく分かりません(^^;)

  始めは、ジョージ・サリッジという、動物園の園長の視点で書かれています。
  社会的地位は申し分ないが、夫婦仲は冷え切っていて、ついつい博打に手を出してしまい、金繰りに苦労している中年男性です。
  そんなジョージは、ある日、動物園に来ていたナンシーと出会い、恋に落ちてしまいます。
  妻に隠れて逢い引きを繰り返していたが、叔母の遺産を当て込んで、ついに家を買い与えてしまいます。
  しかし、予期せぬアクシデントが起こり、やむなく悪事に加担、ジョージの人生は転落の一歩を踏み出すことに。

  ジョージは、博打はするは、愛人を囲うはで、しょうもない男なんですが、どこか憎めないキャラなんですよね(笑)
  当てにしていた遺産が無くなってしまったのも、気の毒としかいいようがないわけで・・・。
  ただ、ここまでくるのに物語の3分の1掛かっているのですよ。やや冗長な感がありますね。
  もちろん、探偵役のフレンチ警部はまだ登場しません。
  実は、フレンチ警部が登場するのは、ずっと後で、残り3分の1になってからです。

  本作が普通の倒叙とちょっと変わっているのは、主人公のジョージはあくまで“共犯”だという点です。
  分け前を貰うため、犯人の言われるままに行動を起こすのですが、それがどういう意味を持つのか、どのように犯行を行うのかは一切知らされていません。
  誰が犯人かは読者には分かっているし、ジョージの行動も見えているため、倒叙形式を採っているのですが、主犯の犯行は伏せられたまま。
  この辺りが『倒叙形式と普通の探偵小説の融合』のようですね。

  さて、フレンチが登場すると、視点はフレンチのものに変わってしまいます。
  ジョージを主人公に据えたのなら、視点はジョージのままでフレンチを登場させたほうが良かったのではないかな。
  その方が、ジョージが次第に追い詰められていく様子が分かりやすいと思うし。
  あるいは、フレンチをもっと早い段階で登場させ、あくまで主人公はフレンチとするかですね。
  倒叙と探偵小説の融合を試みた意欲は買いますが、ちょっとどっちつかずになってしまったかなという気がしますね。
  フレンチのパートでの推理も面白みに欠けているのが残念。

  ラストは、少々宗教色が強いかなという気がしますが、最後にわだかまりが解けて良かったなと思います。
  もっと早くに気付いていれば、こんな悲劇は起こらなかったのに・・・。
  ジョージは人生の大きな代償を支払ってしまいましたね。

  今回は「本が好き!」経由で東京創元社さまより本を頂きました。ありがとうございます。

■評価(5個が最高)

 

◆トリック度

267267267

◆冷や汗度

404404

◆満足度

★★★

■特におすすめ!

  • 倒叙ものが好きな方
  • 既婚者の方
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Category: 海外ミステリ
Published on: Mon,  26 2010 23:31
  • Comment: 4
  • Trackback: 0

ミステリー クロフツ フレンチ警部

4 Comments

viviandpiano  

クロフツ作品でしたか。

私も『樽』には興味があったけれど、
まだ全然読んでないんですよね(^^;
何と言うか、ちょっと重い感じがして。

やっぱり、古典は訳者によって全然違うし、
キャラクタの軽くない作品は敷居が高いです。
クリスティーはキャラが好きなので楽に読めたんですけど・・・

でもいつか、チャレンジしてみたいです。

2010/04/27 (Tue) 03:21 | EDIT | REPLY |   

翠香  

viviandpianoさんへ

『樽』は、内田先生の『鐘』という作品(浅見シリーズです)が雰囲気が似ているという話を聞いたので、読んでみたいな~と思っているのです(^^)
以前、他の方のレビューを読みましたが、重い雰囲気ではなかったような・・・。

確かに翻訳が古いものは読み辛いですよね。
ここ数年、新訳が出回ってきているので、かなり改善されてきたかな。
この作品も平易な文章で読み易かったですよ(^^)

2010/04/27 (Tue) 21:51 | EDIT | REPLY |   

nao  

クロフツ・・秀作揃いなのだけれど

「樽」「クロイドン発12時30分」・・こういう旧くて堅い作品は敬遠されがちのようですね。
それは外国でも同じで、半ば忘れられた作家であると、以前読んだ憶えがあります。
だって地味だもの・・仕方ありません(上の二つ、展開はダイナミックかも)。
とはいえ、これら秀作が埋もれてしまうくらいの、
海外のミステリー作家の層の分厚さは羨ましい・・
しかし、東京創元社はよくクロフツの未訳作を出版したと思う(秀作群は既刊のはず)。感謝したいです。
翠香さんの、読後の細やかな感想(紹介)を読み、
この小説を読もうと思いました。
ブログ応援しています!

2010/05/08 (Sat) 22:50 | EDIT | REPLY |   

翠香  

naoさんへ

naoさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
私は、海外ミステリに対する苦手意識が先行してしまったため、
(登場人物の名前が覚えられず、何度も確認するので、物語に集中できなくて・・・)
まだ数えるほどしか読んでいないのですが、
少しずつ勉強していこうと思います。

クロフツ・・・確かに地味ですよね。知る人ぞ知る作家かも。
『樽』は近いうちに読みたいと思っています。
『クロイドン~』も倒叙らしいですが、こちらは倒叙三大名作の一つと言われているそうなので、期待できそうですね。

また、ご感想、ご意見聞かせてくださいね。

2010/05/09 (Sun) 00:13 | EDIT | REPLY |   

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