【そして名探偵は生まれた】 歌野晶午

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By翠香

◆◇◆名探偵と呼ばれた男◆◇◆

歌野晶午シリーズ外
中短編集
祥伝社 2005.10
  祥伝社文庫 2009.2


■あらすじ

影浦逸水は、下世話な愚痴が玉に瑕だが、正真正銘の名探偵である。難事件解決のお礼に招かれた伊豆の山荘で、オーナーである新興企業の社長が殺された。雪の降る夜、外には足跡一つなく、現場は密室。この不可能犯罪を前に影浦の下す推理とは? しかし、事件は思わぬ展開に……。(「そして名探偵は生まれた」より)“雪の山荘”“孤島”など究極の密室プラスαの、ひと味違う本格推理の傑作!

(祥伝社文庫より)

■感想
テーマ読み「探偵」ラストを飾るのは、【そして名探偵は生まれた】です。
何やら変な探偵ばかり登場していましたが、ついに、待望の名探偵が誕生いたしました!
そう、「そして誰もいなくなった」のではなく、「そして名探偵は生まれた」のです!めでたしめでたし。(終)

今回のテーマ読みは最初が【最初に探偵が死んだ】、最後が【そして名探偵は生まれた】
タイトルが対になる構成にしてみました。
ところが驚いたことに表題作でまた探偵が死んでしまうのです!
ミステリにおいて探偵役は死なないというのが暗黙の了解であるので、
テーマ読み8作中3作で探偵が死んでしまうとは恐るべき確率ですね(^^;)

本作は4編の中短編集です。作品同士のつながりはありませんが、
密室、クローズド・サークル、館ものと本格好きにはたまらない作品集だと思います(^^)


【そして名探偵は生まれた】
影浦速水は数々の難事件を解決した正真正銘の名探偵だ。
しかし自分の活躍を公表できないと下世話な愚痴ばかり。
影浦と助手の武邑は、ある難事件を解決したご褒美に企業の保養所に招かれたが、
その夜社長が何者かに殺されてしまう。
現場は密室状態で武邑は色めき立つが、影浦はノーギャラでは働かないとまるでやる気がなく・・・。

己の活躍を本にして出版すれば人権侵害と訴えられ・・・
名探偵は全ての探偵小説好きの憧れであるはずなのに、現実は厳しいのですね(^^;)
名探偵の理想像とのギャップが可笑しさと悲哀を感じます。
ここでは大掛かりな物理トリックが使われています。
ひねりの効いたラストも存分に名探偵という存在を皮肉っていますね。
でも影浦亡き後、武邑くんはどうするのでしょうね?


【生存者、一名】
屍島に降り立った六人の男女は都内で爆弾テロを行なった四人の実行犯と二人の幹部だった。
翌日、幹部の一人が船とともに姿を消し、残りの五人は文字通り絶海の孤島に閉じ込められた!
組織に対する疑心と、食料をめぐる仲間同士の暗鬼。やがて、一人また一人と殺されていく…。
犯人は誰か?そして、最後に生き残る者は?

本作は祥伝社文庫の企画「400円文庫」で無人島をテーマに書き下ろされたもの。
同じテーマで書かれた作品は他に、恩田陸『puzzle』、近藤史恵『この島でいちばん高いところ』、
西澤保彦『なつこ、孤島に囚われ。』があり、この4編を収めたアンソロジー『絶海』が刊行されているようです。
コストパフォーマンス的には本書かアンソロジーで読む方がお得ですね。
始めこれは石持浅海作品かと思ってしまった。
宗教団体の歪んだ倫理観が【月の扉】でハイジャックを決行した若者たちとオーバーラップしたのです。
しかし教団の裏切りが発覚し、取り残された五人が神に身を捧げていたとは思えないほど
人間の本性をむき出しにしていく様子は何とも皮肉なものです。
冒頭で「生存者一名、死者五名」との報道記事があり、始めは人数が合っているのですが、
途中で一人が抜け駆けしていなくなるので、計算が合わなくなる。
当然"騙し"がある訳ですが、現実的にはちょっと無理があるような・・・。
結局生き残ったのはどっち・・・だったのだろう。
この前にあったと思われる壮絶なバトルを想像すると空恐ろしくなります


【館という名の楽園で】
N大学探偵小説研究会のメンバーが久しぶりに一堂に会した。
メンバーの一人・冬木が長年の夢を実現し、三星館なる奇妙な館を建て、かつての仲間たちを招待したのだ。
冬木は四人の招待客に三星館にまつわる伝説(実は冬木の創作なのだが)を披露し、推理劇の実演を提案する。

これも400円文庫として刊行されたもの。
館ミステリがテーマで柄刀一『殺意は幽霊館から』も同じラインナップだそう。
探偵小説に出てくるような館を実際に作ってしまい、それに見合った事件を実演するという
稚気にあふれる作品になっています。なんと執事やメイドまで!(実はバイトなのだが^^;)
これで運転手もいたら【貴族探偵】と同じだったのに~。執事が運転手も兼ねてました(笑)
館のトリックは森博嗣氏の某作品と同じかと思ったのですが、もっと単純でした。
館の舞台裏が明かされると夢の世界から現実に引き戻されたかのような気分になりました。
ラストはしんみりしてしまいますね。


【夏の雪、冬のサンバ】
外国人が多く集まる安アパートで中国人のドラゴンが殺された。
ユダヤ人のダビデとインドネシア人のバロンは死体を発見するも自分たちの不法滞在がバレるのを恐れ、
警察に通報できない。ダビデは私立探偵の八神一彦に助けを求める。

文庫化に当たってのボーナス・トラック。
変なタイトルですが、これ実はヒントになっています。でもこれが分かっても謎は解けない。
最大のヒントは安アパートってことですね。
オチは予想通りだったので、思わずニヤリ。
ちなみに探偵・八神一彦は長編『安達ヶ原の鬼密室』でも登場しているそうです。

■評価(5個が最高:★は1点、☆は0.5点)

 ◆トリック度267267267267
◆冷や汗度404404
◆満足度★★★★

■こんな方におすすめ!

  • 本格推理が好きな方
  • コストパフォーマンス重視の方

◆テーマ読み「探偵」◆
テーマ読み「探偵」

今回でテーマ読みは終了いたします。
今まで参加していただいた皆様、ありがとうございました。

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Comments 6

くま  

くまです、お久しぶりです。こんにちは。歌野晶午さんは葉桜だけ読んで、あの手のものは私はあまり好まないのでもうこの作者さんはパスかな~と思ってたんですが、こちらのレビューを読ませていただくと、この本は私の好きな密室ものらしいので、もしかしたらこれならいけるかな?と思いました。リベンジしてみようかなぁ。

2013/12/20 (Fri) 16:20 | EDIT | REPLY |   

翠香  

くまさんへ

お久しぶりです。
葉桜、好みではありませんでしたか~
私はおススメベスト5に入るほどお気に入りなのですけど(^^;)
まあ好みは分かれるかもしれませんね。
歌野作品は私もそんなに読んではいないのですが、色々な作風を持っている方だと思います。
本作は密室ものとはいっても、ちょっと皮肉も交えつつひとひねり加えた作品集ですね。
面白かったですよ♪

2013/12/20 (Fri) 23:42 | EDIT | REPLY |   

くま  

実は私、葉桜みたいなアレ系(ネタバレ防止であえてこんな曖昧な言い方に。わかって頂けると思うのですが)があんまり面白いと思えない人なんですよね・・・。そのせいで最新ミステリのうちかなり多くが楽しめません。翠香さんに頂いたお返事見て、「ひとひねり」に正直引っかかりましたが(ひねりのあるミステリも苦手なのです)、ぜひ読んでみようと思います。参考になるレビューありがとうございました。

2013/12/21 (Sat) 19:12 | EDIT | REPLY |   

mokko  

これでラストなのですねぇ

何といううまい締め方でしょう
最初に名探偵が死んで、ラストが生まれる
うますぎますぅ~о(ж>▽<)y ☆
こn短編集の中の「生存者、一名」は
テーマ読みナンバーで読んでました。
あれはちょっといただけないと思ったけど
他のは面白そうですね(o^o^o)
mokkoもようやくラストを読み終わりました(o^o^o)
今回も参加させていただいて楽しかったです
ありがとうございますぅヾ( 〃∇〃)ツ ウキャッ
そしてお疲れ様でした<(_ _)>
次も楽しみにしております。
なんせ、テーマ読みが、色んな作家さんを知る
きっかけになってますから(o^o^o)

2013/12/21 (Sat) 20:17 | EDIT | REPLY |   

翠香  

くまさんへ

はい。その前のコメントで分かってましたよ。
葉桜がもし種明かししておしまいになっていたら、私も評価しなかったと思います。
でもその後がいいんですよね~。成瀬の生き様がカッコ良くて・・・しびれました(笑)
ミステリとしての面白さではないのですけどね。
私はトリックを駆使していても物語が薄っぺらな作品は好きじゃないので・・・。

ひねりのあるミステリが苦手でしたら、本作は合わないかも・・・。
いわゆる王道の密室ものではないですね。
むしろ家シリーズの方が合っているかも。こちらは物理トリックを駆使しているので。
私は探偵役のキャラに魅力を感じないのでイマイチなんですけど(^^;)

2013/12/21 (Sat) 23:55 | EDIT | REPLY |   

翠香  

mokkoさんへ

今回のテーマ読みはスタートで出遅れてしまったので、かなりキツかったです。
苦渋の選択で2作減らしたけど、結果的に上手く締められたかな。
「生存者、一名」はmokkoさんのレビューを読んだときは、読むことはないと思ったのですが、
図らずも読むことになってしまいました(^^;)
でも思っていたほど悪くはなかったです。
やっぱり先入観を持つのは危険ですねぇ。

今回も積極的に参加いただきましてありがとうございました。
お互い年内に終了して良かったですね(^^)

2013/12/22 (Sun) 00:08 | EDIT | REPLY |   

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